2020年3月、生まれて初めて全身麻酔で手術を受けた時のお話です。初めての手術で怖いなぁ、全身麻酔ってどんな感じだろう、そして縦隔腫瘍と診断されて不安になっている方の参考になればと思います。私は医療関係者ではなく専門的な知識はないので、あくまでも体験談として参考にしてください。
縦隔腫瘍ってなに?手術を受けることになるまで
初めて人間ドックで引っかかる、そして再検査
健康だけが取り柄の私ですが、2018年11月の人間ドックで初めてD判定で引っかかりました。診断書の初見の欄に「右上の肺野 縦隔の腫瘤影」と書いてあり、縦隔(じゅうかく)ってどこ?と聞き慣れない言葉を早速ネットで調べました。
縦隔とは胸部臓器の名称で、左右の肺に挟まれた部分。つまりは肺と肺の間に何かができているかもしれないということ。とりあえず地元の総合病院で再検査を受け、CT撮影の結果「異常なし」でした。
そして2019年11月の人間ドックでまたしても同じ内容で引っかかりました。2年連続で引っかかるということは、自覚症状はないけど何かできているのだろう…そう思い今度は人間ドックを受けている病院で再検査を受けました。
呼吸器内科でCT撮影を受けて、別の日にMRI撮影を受けて、その2日後に検査結果を聞きに行きました。撮影した画像を見てみると、CTの方には腫瘍らしきものがぼんやりと写っていて、MRIの方にはくっきりと丸い影が写っていました(まん丸でした)。大きさは2~3cmぐらい。先生の見立てでは神経から生えている神経原性腫瘍だろうということでした。神経から腫瘍が生えるんですね…。
この病院では2人の先生が読影(どくえい)しているとのことなので、見立ては間違えなさそうでした。ほとんどが良性なので怖がることはないけど、このままにしておくと巨大化することもあるし、悪性に変わることもあるので、取るのが一番安心ですと言われました(取って病理検査しないと良性かどうか分からないとのこと)。そして最近ではロボット手術という傷口が小さくて済む手術もあるので、入院も短期間で済みますよとのことでした。
この病院には呼吸器外科がないので、腫瘍を取るのであれば提携している病院を紹介しますとのことで、私は迷わず紹介してもらうことにしました。そして腫瘍を取るか様子をみるかは外科の先生に相談することになりました。
呼吸器外科のある大学病院へ
人間ドックを受けている病院で週に一度、某大学病院の呼吸器外科の先生の診察があるということで受診しました。呼吸器外科の先生も「様子見でもいいけど取った方が安心」と言うので「手術、受けます!」と答えました。紹介状がないと診てもらえないような大学病院なので、せっかくだしこの機会に取ってもらおう!と思いました。それに全身麻酔で手術を受けるなら、少しでも若くて体力のあるうちの方がいいだろうと思いました。
2020年1月。初めて某大学病院へ。ものすごい人数が出入りしている巨大病院で、採血するだけでも30~45分待ちは当たり前。TDLのファストパスみたいに採血の予約票を取るのには驚きました。会計もものすごく待たされるので、医療費あと払いクレジットサービスを利用しました。その場で領収書が出ないので、次回来院の際に忘れずに自分で出力する手間はありますが、会計せずに帰ることができるのでとても便利でした!
採血や会計だけでなく、予約していた診察でさえ1時間以上待たされるのは当たり前。さすがは大学病院。初めて行った日は、血液検査と喀痰(かくたん)検査をして終わりました。
手術前検査を受け、一番偉い先生に診てもらう
手術前検査では、負荷心電図検査(凸型の2段の階段を3分間登ったり降りたりする検査)と呼吸機能検査(勢いよく息を吐き出して肺の機能や病気を調べる検査)、それとレントゲンを撮影しました。
そして2020年2月。大学病院へ転院し3週間過ぎてやっと呼吸器外科の1番偉い先生にお会いすることができました。私の腫瘍は後ろ側の縦隔(右寄り)にあるらしい。
交感神経のすぐ近くに腫瘍があるので、手術することにより右側の脇に汗をかかなくなったりするかもしれないと言われました。でもたとえ脇に汗をかかなくなったとしても、代わりに足の裏に汗をかくとか、お尻に汗をかくとか、別の場所から汗が出てくるそうです。
手術方法は「ロボットでいいよね?」と言われたので「はい!ロボットでいいです!」と答えました。ロボット手術と言ってもロボットがやる訳ではありません。正しくは内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」。結局は先生が動かすのです。ただしこのロボットを使うことができる先生は限られているとのこと。
このロボット支援手術は2018年から保険適用になったというお話も聞いてちょっと安心。ただしロボット手術が困難な場合は、開胸手術を行うことがありますと聞いてちょっとだけビビりました!教授のお話によると、長年縦隔腫瘍を放っておいた(気付いていなかった)老婦人が、縦隔腫瘍が巨大化して神経を圧迫し具合が悪くなり、開胸手術を行ったことがあるそうです。歳をとってからの全身麻酔はリスクがあるので、やはり今のうちに取っておいた方がいいね、ということでした。そして手術を受ける日は、子供たちのことと仕事のことを考えて2020年3月下旬に決めました。
入院支援センター 術前外来
いよいよ手術を受ける前の最終確認です。まず、入院支援センターにて「手術を受けられる皆様へ」というパンフレットをもらい説明を受けました。アレルギーはないか(薬、食べ物、ゴム製品、アルコール、テープ等)、全身麻酔を受けて何か問題があった人が身内にいるかの確認もありました。
それと口の中もよ~くチェックされました。全身麻酔をすると意識がなくなるだけでなく、しっかりとした自発呼吸ができなくなるので、酸素の通り道を確保するために口から気管に柔らかいビニールのチューブを入れるらしいのですが、グラグラしている歯があったりすると、その歯が胃や気管に入り込む恐れがあるとのこと。割と太めのチューブを口の中に挿すので、手術後は声がかすれて出なくなったりもすることも聞かされました。
さらに手術当日の流れがわかるDVDを視聴。このDVDの硬膜外麻酔のところを見て痛そうで怖くなってしまいました。背骨の中にある脊髄を包む膜の外側にある硬膜外腔(こうまくがいくう)という場所に細い管(カテーテル)を留置して、そこから局所麻酔薬や医療用麻薬を注入し痛みを軽くする方法だそうです。
手術台の上に横向きになって海老のように体を丸くして背中に針を刺すのですが、このシーンでもう怖くなってしまい、管が手術後もずっと飛び出しっぱなしというのも嫌で、硬膜外麻酔ではなく点滴の鎮痛剤の方にしてもらいました。
縦隔腫瘍の手術 入院から退院するまで
小中の娘2人がちょうど春休みに入る頃に入院しました。学校がある日よりも春休み中の方がいいのではないかと考えたからです。中2と小5だったので母親が居なくてもなんとかなりましたが、未就学児や小学校低学年だったら、手術を先延ばしにしていたと思います。
※ここからは長くなるので「である調」の文章になります。
手術前日に入院
2020年3月24日(火) 入院する日は夫が休みを取り車で病院まで送ってくれた。受け付けを済ませて9階の病室に入り暫くすると薬剤師さんが来て、日頃飲んでいる薬(花粉症の)を取りにきたり、先生が来て太ももの付け根から採血をした。腕から採る血は静脈からの血(体を廻ってきた後の血)で、太ももの付け根から採る血は動脈からの血(体を廻る前の血)で、体の中の酸素の状態などが分かるらしい。
その後はシャワー→昼食→レントゲン→身長・体重測定→CT→夕方5時ごろ先生から手術の説明(30分)→夕食→21時消灯、といった流れだった。21時消灯は早過ぎて全然眠れず、0時頃にやっと眠りについた。
手術当日
2020年3月25日(水) 6:30検温、排便3回 手術後はトイレに行けないので便を全部出す。昨夜飲んだ下剤が効いた。手術前日21時から引き続き食事摂取と飲水は不可だ。9:00手術室へ移動。麻酔の先生が現れるのを暫く待ち、手術室へ通され、ドラマに出てくるような手術台の上に横たわった。あぁいよいよか…と思っていると全身麻酔が始まり、看護師さんに肩を1、2、3…と叩かれているうちに耳の中がじわぁっと塞がれるような感じがしてすぐに意識がなくなった。
「〇〇さん」と看護師さんに起こされ気がつくと、体の右側に激痛が走った。「痛い…痛い…」という言葉しか出てこない。酸素の通りを確保するための管を喉に挿していたせいで、声もかすれて出ない。痛くなったらこのボタンを押してください、とナースコールのボタンのようなものを握らされた。ボタンを押すと点滴の鎮痛剤が追加されるようだ。とにかく痛くてボタンを何度も押していた。
ベッドに横たわったままエレベーターで自分の病室へ移動すると、夫が待っていたようだが痛くて目をギュッと閉じていたので、一瞬薄目を開けて夫の顔を見ただけだった。その後はずっと「痛い…痛い…」を繰り返し、夫の「もう帰るね」という言葉に手を振ることもできず、一晩中痛みと闘った。
体が痛すぎて寝返りも打てない。ふくらはぎに巻かれたフットポンプが、一晩中圧迫・弛緩を繰り返していた。夜中に痛みに耐えられなくて看護師さんに伝えると、もう点滴の鎮痛剤の限度量を超えてしまうので、これ以上痛み止めは追加できないとのことだった。とにかく痛みに耐えるしかなかった。たった4箇所切るだけだ、と甘くみていた。
手術翌日
2020年3月26日(木) この日のことはあまり良く覚えていないのだが、とにかく朝になっても傷口が痛くて悶絶。でも痛みに耐えながらCTを撮りに行かされた。車椅子に乗るのにも激痛が走る。9階の病室から6階?のCT室へ行くのにも、エレベーターがなかなか来ないし、来ても満員だったりしてずっと待たされた。そして痛みに耐えながら病棟内を歩かされたりもした。これは辛かった。元々痛みに弱い方で、出産の時も大騒ぎしたので、もし今後また手術をするようなことがあれば、あの海老のように体を丸くして背骨の隙間に針を刺す硬膜外麻酔を選ぶだろう。少しでも痛みが軽減された方が良いからだ。
そして何時頃だったか忘れてしまったが、胸の排液を出す管(胸腔ドレーン)を抜くことになった。診察台に横たわり、先生の「息を吸って」「はい、止めて」の合図に合わせて、息を止めるとドュルドュルドュル~っと胸から管が抜けていくのを感じた。それを2、3回繰り返し、す~っと全部の管が抜けた。不思議なことに、この管が抜けると痛みが激減。嘘のように動きやすくなった。私が入院していたのは呼吸器外科で、この胸腔ドレーンを装着している年配の男性が沢山居たのだが、みんなそんなに痛そうにしていなかったので、やはり私が痛みに弱いのだろう。とにかく胸腔ドレーンを抜いてからは、積極的に病棟内を歩き、みるみる回復していった。
手術翌々日
2020年3月27日(金) レントゲン、採血、点滴の針を抜く、シャワーを浴びる等。まだ傷口が痛むが、ドレーンを抜いてからは調子がいい。本当はもう退院して日常生活に戻ってもいいらしい。家事などで動き回った方が、肺の回復が早いそうだ。今回の手術は肺ではなく、肺と肺の間の縦隔の手術だが、片方の肺を潰して?手術をしたので、体を動かした方が早く肺が回復するとのことだった。
しかし荷物も多く、土曜日に夫に車で迎えに来てもらう予定だったので、退院は土曜日にしてもらった。あと1日ゆっくり休める…と思っていたが、先生や看護師さんがちょくちょく見に来て、スマホを見て横になっていると「家ではそんなにゴロゴロしていないですよね?」と、とにかく動くように病棟内の散歩を勧められた。そうか、もう病人ではないのだ…。
いよいよ退院
2020年3月28日(土) 退院前にレントゲン撮影。レントゲン確認後、医師の指示が出たら退院。痛み止め等の処方薬をもらい、次回外来予約をし、会計を済ませて無事退院した。4泊5日の入院生活ともおさらばだ。家に帰ると、娘2人が「ママおかえり」の飾り付けをして暖かく迎えてくれた。
(追記1)結局傷口は4ヶ所あって、3ヶ所は自然に溶ける糸で塗ってあるとのことだった。残りの1ヶ所はドレーンを入れていた穴で、これは溶ける糸ではないので術後16日目の4月10日に抜糸した。それまではずっと湯船には浸からずシャワーで過ごした。治りかけの時は痒くて堪らず、塗り薬をもらった。
(追記2)術後1ヶ月過ぎの5月1日に最後の診察(レントゲン)。病理検査の結果『良性』だった(良かった)。診断名に『後縦隔のう胞』と書いてあった。もう通院の必要は無し。
(追記3)手術から5ヶ月近く経っても暑くて汗をかくとまた傷口が痒くなる。ドレーンの穴は結構深いので、治るのに数ヶ月かかると言われていたが、傷跡も大分薄くなった。夏になって気がついたのだが不思議なことに背中の右側に全く汗をかかなくなった。腫瘍のあったところが交感神経に触れていたので手術の影響だろう。
(追記4)手術から10ヶ月経過。傷口もかなり薄くなってほぼ気にならなくなった。
(2021.4.20追記)手術から1年以上経過。たまに傷口が痒くなりますが、もう何ともありません!